すみよしの手帖

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字幕翻訳が超訳とかになりがちな理由

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こんにちは、ドイツのふらふらフリーランサー、よしのです。

主に字幕翻訳をしています。

 

字幕翻訳って超訳じゃない?」を筆頭に、字幕翻訳に対するよくある疑問・批判について、なぜそうなるのか理由を書こうと思います。

字幕翻訳をしている人や、字幕翻訳の学校に通ったことがある人には当たり前の話なのですが、そうでなければあまり知られていないと思うので。

 

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超訳・意訳になる理由

文字数制限

超訳になる1番の理由は文字数制限です。

納入先によって異なりますが、言語ごとに異なる文字周りの制限があります。

文字数制限は2種類、1行ごとの文字数と1秒間の文字数の制限があります。また、行数の制限もあります。

これは見やすい大きさのフォントで画面に収まることと、脳が一定の時間に情報を処理できることという条件があるからですね。

私が教わった厳しい文字数制限の例だと、1秒間の文字数(Characters Per SecondでCPSといます)が4文字という納入先があります。

訳してみると分かるのですが、1秒間4文字ってほとんど何も書けません。一瞬で切り替わるシーンなんかだと、2・3文字しか入れられなかったりします。

よって、訳元の言語に近い意味の訳出言語の言い回しで文字数の少ないものがあれば、意味が一対一で合っていなくてもそれを選択することは、よくあります。

これはビジネス文書や専門文書の訳と字幕翻訳の大きく異なる点です。

 

登場人物の意図の汲み取り

よい字幕翻訳は、字幕翻訳がそこにあることを感じさせない訳だと読んだことがあります。

文字数が多すぎる場合なんかは見ていてとても違和感を感じることになるのですが、表現が固すぎたり、聞いたことのない言葉だったりしても、見ている人の頭の中に「?」が浮いてしまって、作品の進行を追うのを邪魔することになります。

そもそも、言語が違うと全く同じ概念の言葉というのが存在しなかったりして、直訳に限界があります。例え直訳が可能だったとしても、必ずしも直訳するのがキャラクターの意図を反映することにはなるとは限りません。そういうときはやはり、このキャラクターが何を言いたかったのかということを汲み取って、嘘や誤りにならないようにその意図に最も近い表現を採用するのがよいと思います。

掛詞のギャグとかは言語が違うと意味が通じなくて変えざるを得ない場合もあるかと思います。ギャグは訳すのが最も難しい部分です(-"-)

 

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オチが先に訳に出てくる理由

これは超訳とは別の話ですが、Podcastでバイリンガルの人が言っていた字幕翻訳への文句で、「和訳は登場人物が次のコマで言うことを先に訳してしまったりしていて不愉快」という問題について。

例えば英語と日本語だとどうにも文の構造上各要素が出てくる並びが違うため、こういうことになってしまうんですよね。ガイドラインでも日本語の場合は字幕のシーンをまたがって訳を置き換えることが許されているところがあります。

私も日本語字幕で英語の番組を見るときは英語を聞きながら日本語を目で追っているので、そこにズレがあると違和感を感じる気持ちはとても分かります。

自分が訳すときは、倒置などにしてあまり違和感がでない場合はできるだけ訳元の言語の並びを再現するようにしていますが、文章が超長かったりするとどうしてもそれが無理な場合があります。

 

制限があるからこそ逆に自由

文字数制限が厳しいほど、訳出する情報を純化しなければならならず、必要ないと思われる部分はカットする必要が出てきます。簡単な例を挙げると、登場人物の名前とか(言ってるからさすがに耳で拾える)、繰り返しのセリフとか、「ああ/うん」みたいな掛け声はカットされる上位項目です。

経験上は、訳が短い方が、訳が悪目立ちすることが少なく、見たときの違和感は低いです。

先に述べたとおり、ビジネス文書や専門文書は字幕翻訳にあるような文字数制限があることはあまりないと思います。そういう文書は可能な限り原文に忠実に一言一句訳出することになると思いますが、字幕翻訳は制限があるからこそかなり訳者の裁量に任せられる部分もあり、自由度が高いのです。そこで訳者のボキャブラリーや単語の選択のセンスが出ます。私は字幕翻訳のそこの部分が好きです。

 

誤訳となると話は全く別ですが、意訳・超訳に関してはこのような事情もあるんだな~ぐらいに思っていただければ。

 

今日はそんなところです。

ビスダン。

 

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